晩秋の鉄旅② 中央線211系セミクロスシート車による普通列車の旅編

前回、651系の臨時快速列車「ぶらり高尾散策号」の乗車記を書きましたが、今回はその続き「中央線211系セミクロスシート車による普通列車の旅編」です。

 

高尾駅に着いて、651系が回送列車としてホームから去っていくのを見送った後、一度改札口を出て少しぶらぶらし、ホームに戻りました。

この後、八王子駅まで引き返して、横浜線と相模線を経由し東海道本線茅ヶ崎駅に出てから小田原駅に向かうつもりでした。

ところが、上り方面に向かう次の列車を待っていると、向かい側のホームに停まっている211系の6連に目が止まりました。

その6連はセミクロスシート車だったのですが、セミクロスシートの車内の醸す雰囲気にちょっぴり旅情をそそられ、それに乗って下り方面へもう少し先まで行ってみたくなったのです。

 

f:id:shinop100:20181202165751j:plain

 (画像は大月駅にて)

ちなみに、前回ホリデー快速ビューやまなし号で塩山駅まで行った帰りも211系の普通列車高尾駅まで引き返して来たのですが、その時はオールロングシート車でした。

せっかくの車窓風景がロングシートでは十分に満喫出来ないと思いつつも、混んでいなければ向かい側の窓々から外の風景が広く見渡せるし、車内の状況も大分先まで見通せるのでそう悪くないかもなどと思い直したりもしたのですが……

それでも、やはり鉄道の旅の独特な雰囲気はクロスシートあってのものだと思いました。

ということで、思いがけず211系のセミクロスシート車に出会えた喜びがありました。

 

列車は10時30分高尾発小淵沢行きの533M。

休日おでかけパスのエリア限界である大月まで乗ることにしました。

時間にして50分弱です。

僕はもちろんクロスシートに座りました。

ただ、窓側はもう埋まっていたので通路側でした。

シートは思いの他柔らかく座り心地が良かったです。

国鉄時代の車両はこうした近郊形車両のシートもしっかり作り込まれている印象ですね。

 f:id:shinop100:20181202170021j:plain

 

高尾駅出発時、乗車率は座席が半分ちょっとくらい埋まっていた程でしょうか。

ボックスの右斜め向かいに六十前後と思われる年配の男性一人。

左隣のボックスには男女カップルが二組。

二十歳前後と思われる若いカップルと四十前後と思われるミドルのカップル。

彼らがどういう目的で列車に乗っているのかはもちろん知りませんが、何れも沿線の地元に住んでいると思われる人たち。

乗客は次の相模湖で結構乗ってきて、立ち客も出るくらい。

しかし、それ以降は増えず、駅に停まるたびに乗客がパラパラと降りていくような具合でした。

 

中央線の高尾以西は線路が山間をくねくねとカーブを繰り返しながら続き、トンネルも多く、路線の雰囲気はそれまでと大分変わります。

外は爽快な秋晴れ。

日差しは強く、左窓から差し込んでくる日光に暑さを覚えるくらい。

列車は各駅を停車し、ゆったりとしたペースで目的地を目指します。

途中、特急の通過待ちもあります。

中央線は全国有数の特急街道。

僕の地元の常磐線もそうなのですが、特急が頻繁に走る路線の普通列車は通過待ちが増えたりするのですが、路線全体が引き締まって活気づく気がします。

 

そして、やはりセミクロスシート車は雰囲気が出ます。

今や都心部では「普通」と聞くと多分ほとんどの人が4扉オールロングシートの通勤形の電車をイメージするのではないでしょうか。

でも、211系のようなある程度年季の入った近郊形車のセミクロスシート車に乗っていると、客車を機関車で引っ張っていた汽車だった頃の「普通列車」の雰囲気を僅かに感じ取ることが出来ます。

僕としてはこれを急行形で……というのが理想なのですが、近郊形でも十分にその雰囲気を感じ取れると思います。

そして、この雰囲気というのがイベント列車などで意図的に演出されたものではなく、日常の運用の中でナチュラルに醸し出されているところが良いのです。

 

といっても、かつての僕は211系に無味乾燥なイメージを持っていました。

211系は1985年の国鉄末期に登場した車体がオールステンレスの近郊形電車で、僕が小学生の頃には東海道線本線東京口普通列車として走り始めていました。

まだ鋼鉄製車が多数派だった時代、銀色にピカピカ輝くステンレスの車体は、いかにも新時代的で無機質な印象がありました。

国鉄末期は分割民営化の実現化がいよいよ目前に迫っており、子どもながらにもそんな時代の変化を肌で感じ、鉄道の古き良き時代の情緒が消えていくような寂しさも感じていたものです。

僕にとって211系はその象徴一つだった訳です。

 

しかし、時を経て211系も良い味を出すようになったんだなあとつくづく。

化粧板、網棚、手すりなど、そこかしこに懐かしい国鉄時代の名残を感じます。

どんな最新のものでも時間の経過と共に古くなり、経年劣化、陳腐化もしていくのですが、一方で年月を重ねることによって郷愁を帯びた味わいも出てきます。

そうした味わいが旅情を掻き立てるのだと思うし、鉄道で旅をする事が好きな人の多くは多分そういう所に惹かれるのだと思います。

 

 列車は11時18分に大月駅に到着しました。

自分を含め、ここでかなりの乗客が降りました。

列車は1分程度停車した後すぐに甲府小淵沢方面に向けて出発していきました。

f:id:shinop100:20181202170253j:plain

大月駅は特急の特急の停車駅。

また、河口湖方面に伸びていく富士急行線の始発駅でもあり、駅には少し活気があります。

f:id:shinop100:20181202170324j:plain

 

僕はここまで来たら、後は戻るだけでした。

すぐに反対のホームへ行き、上り方面に向かう列車を待ちました。

列車を待っていると、JR東日本が誇る豪華列車「TRAIN SUITE 四季島」の通過に遭遇するという幸運が。

急いでスマホのカメラを向けて動画を撮ったのですが、画面左上部に自分の指が映り込むという残念な結果に(^^;

f:id:shinop100:20181202170403j:plain 

 

その四季島を見送った後に、僕の乗る列車が留置場から入線してきました。

f:id:shinop100:20181202170435j:plain

211系の3連でした。

この列車は高尾行きで列車番号は1454M。

時刻表では河口湖発となっているので、おそらく留置場から入線してきた211系の3連は増結用の編成だったのだと思います。

列車に乗り込んでからしばらくすると、後ろに河口湖駅から走ってきたと思われる211系の3連が連結されて6両編成となり列車は出発しました。

ちなみに、この列車もラッキーなことにセミクロスシート車でした。

中央線の211系はオールロングシート車ばかりと思っていたのですが、セミクロスシート車もけっこう運用されているんですね。

 

帰路はクロスシートの南側(進行方向に向かって右)の窓側に座ったのですが、ちょっと失敗だったです。

日差しがとても強かったので、次の猿橋駅に着く前に窓のブラインドカーテンを下ろすことにしました。

僕の座っていたボックスにはまだ僕以外に誰も座っていなかったし、僕としては車窓風景を出来る限り眺めていたい気持ちもあったのですが、これから乗ってくるであろう乗客は日差しを避けたいと思う人の方が多数派だろうなと予測し、そうしました。

こういう判断はなかなか難しいところです。

ただ、こうして悩むのも鉄道の旅の醍醐味だと思います。

 

乗客層も乗車率も行きの列車と同じような感じだったでしょうか。

主な乗客は沿線の地元民と思われ、大して混雑することはなく、もっとも乗客が多い時でも立ち客がパラパラ出る程度。

そんな中、帰路で目についたのは一組の家族連れと老夫婦でした。

家族連れは僕からは少し離れた前方のボックス席に座っていたのですが、はしゃぐ子どもを母親が「しずかにしなさい」と窘めたりしていたのですが、こういうのは30年前から全然変わらない光景だよなあと思い、少し和みました。

老夫婦は僕の向かい隣のボックスで向かい合わせで座っていましたが、「暑いねえ」などと言い合いながらもブラインドカーテンを降ろさずに車窓風景を楽しんでいました。

老夫婦の旦那さんが後ろ向きに座っていたため僕から顔が確認できたのですが、なかなか車内の雰囲気にマッチした渋い顔つきで絵になっていたんですよね。

少し古くて味のある車両の車内では、中高年男性でも何となく佇まいが絵になるから不思議です。

また、そういう車内のクロスシートは、旅気分を演出するというのでしょうか。

お弁当を広げたり缶ビールを飲んだりするという行為が比較的許容されるような空間になる気がします。

これが都会のオールロングシート車の通勤電車内ではなかなかそうは行かない。

 

気づけばセミクロスシート車での旅も終わりに近づいていました。

僕は最後の1区間だけブラインドカーテンを上げて、車窓を楽しむことにしました。

この区間はトンネルや線路際の山肌や木々で日差しが大分遮られると思ったからです。

それでも時折強い日差しがカッとし込んでくることもあり、ボックスの左向かいに座っていた方には少々迷惑だったかも……(スミマセン)

f:id:shinop100:20181202170550j:plain

 

列車は12時22分高尾駅に到着し、211系セミクロスシート車による普通列車の旅は終わりました。 

 

まとめです。

 今回、中央線211系の普通列車に乗るのは予定外だったのですが、思わぬ当たりでした。

また、旅について少し考えさせられたりもしました。

僕が今回思ったのは、旅は過去を振り返る行為と少し似ているということ。

旅とは空間軸の移動だけではなく、(心理的には)時間軸の移動でもあり、特に過去に向かうものなのではないかと思いました。

これは僕がある程度年を重ねたからそう思うのかもしれないし、若者にとっては新しい世界や出会いを求めての未来へ向かうものなのかもしれません。

旅は人それぞれいろいろな形があって良いと思うのですが、多分、僕にとって旅というのは、過去と向き合い、過去の面影を探し、それに触れて懐かしむという要素が強いのだと思います。

古くなった鉄道車両の醸し出す郷愁を帯びた味わいというのは、そういう僕の志向と相性が良いのではないかと思いました。

もしかしたら、僕のこういう志向はとても後ろ向きなことなのかもしれないですが、時は容赦なく過ぎて行き、世の中が息をつく暇もないほど変化し続けていく中で、ちょっと立ち止まったり、後ろを振り返ったり、目まぐるしい変化の中でも不変のものを見出すような作業は時に必要なのではないかと思っています。

少々大げさかもしれませんが、今回211系セミクロスシート車に乗ってから、そんな旅の本質や効用についていろいろ考えたりしました。

 

中央線の普通列車の旅もなかなか良いですね。

441M列車のような高尾から長野まで4時間以上かけて走るような、長距離運用の普通列車もあるようなので、一度チャレンジしてみたいです。

特急形車両のような快適な座席でゆったり旅をするのも無論良いですが、こういう普通列車の旅もなかなか良いものです。

 

という事で、今回はこれでお終い。

次回は晩秋の鉄旅③「湘南の普通列車グリーン車の旅編」を書きたいと思います。